まず必要なのは「被害額」の出所である
特殊詐欺の被害額を論じるとき、最初に確認すべきなのは、数字の大きさではなく、その数字が何の被害を数えているかだ。電話や電子的な連絡を入口に金銭をだまし取る犯罪では、被害の申告、捜査機関による把握、金融機関などからの情報提供が、それぞれ異なる範囲を持ちうる。したがって、ある統計の金額が増えたとしても、直ちに被害そのものが同じ割合で拡大したとは限らない。
今回確認できた資料には、特殊詐欺ではなく、水害による被害額が収録されている。対象が異なるため、これらの数値を特殊詐欺の動向として扱うことはできない。被害額の比較には、少なくとも犯罪の種類、集計対象、期間、金額の単位、認知された事案の範囲がそろっている必要がある。
| 資料で確認できた対象 | 時期 | 被害額 |
| 水害原因別の被害額(合計) | 2014年 | 141808百万円 |
| 水害原因別の一般資産等被害額 | 2014年 | 131746百万円 |
| 河川等種類別の水害被害額(合計) | 2014年 | 293808百万円 |
| 一級河川・直轄区間の水害被害額 | 2014年 | 27431百万円 |
比較で見落としやすい三つの境界
第一は、被害の「発生」と「把握」の境界である。被害者が相談や届け出をしなかった事案は、公式な被害額に反映されない可能性がある。逆に、捜査や確認の進展によって、後から集計対象が広がることもある。
第二は、金額の「確定」と「申告」の境界である。送金額、現金の受け渡し額、カードや口座を通じた損失など、何を被害額に含めるかで結果は変わる。異なる資料を単純に並べると、増減ではなく集計方法の違いを見てしまう。
第三は、犯罪手口の変化と統計の分類である。詐欺の入口や金銭の移動方法が変われば、同じ名称の統計でも中身が変わることがある。総額だけでは、どの場面で被害が生じているのかを判断しにくい。
日本の読者が確認したいこと
特殊詐欺被害額の動向を報じるには、対象犯罪に直接対応する公的資料が必要だ。そのうえで、単年の増減だけでなく、集計範囲の変更、未申告被害の可能性、手口別の内訳を併せて示すべきである。
今回の資料群からは、特殊詐欺の被害額が増えたのか減ったのかを判定できない。確認できるのは、水害に関する複数の被害額であり、特殊詐欺との比較材料にはならないという点である。安全に関する数字ほど、結論を急がず、まず統計が測っている対象を確かめる必要がある。
出典
- 水害統計調査(国土交通省)
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003153085
- 水害統計調査(国土交通省)
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003153064